「お腹が痛くなる」「下痢と便秘を繰り返す」「お腹が張って苦しい」——こうした症状が続いているのに、検査を受けても特に異常が見つからない、という経験はありませんか。それは「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。命に関わる病気ではありませんが、日常生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。今回は、過敏性腸症候群の症状・原因・分類・治療について、消化器内科の視点から解説します。
〈こちらの記事は医師監修のもと作成しています〉
松下医院 院長 松下 昌裕

- 日本内科学会 内科専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 難病指定医 / 両立支援コーディネーター / 医学博士
目次:気になるところから読む
1. 過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、内視鏡検査などで異常が見つからないにもかかわらず、腹痛や便通異常を慢性的に繰り返す機能性消化管疾患です。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
2. 過敏性腸症候群の主な症状
IBSでは、主に以下のような大腸の不調が慢性的に引き起こされます。
- 腹痛
- 腹部膨満感(お腹の張り)
- 下痢
- 便秘
- ガスが増える
3. 過敏性腸症候群の原因とメカニズム(脳腸相関)
IBSの原因は完全には解明されていませんが、次のように脳と腸が互いに密接に影響し合う「脳腸相関」の異常が関係していると考えられています。
ストレス・心理的要因
不安、緊張、抑うつ、人間関係や仕事のストレスなどが自律神経に影響し、腸の働きを乱します。
腸の運動異常
腸が過剰に動いたり、逆に動きが低下したりします。過剰に動くと下痢、動きが低下すると便秘につながります。
内臓知覚過敏
通常では痛みを感じない程度の刺激でも、腸が敏感に反応して腹痛を起こします。
自律神経の乱れ
ストレスにより交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、消化機能が不安定になります。
4. 過敏性腸症候群の分類(タイプ)
国際的な基準により、便の形状などから主に4つのタイプに分類されます。
- 下痢型(IBS-D):急激な便意、水様便、頻回の下痢が特徴です。通勤・通学中や緊張する場面で起こりやすい傾向があります。
- 便秘型(IBS-C):排便困難、硬便、腹部膨満感がみられます。便意があってもなかなか排便できない状態です。
- 混合型(IBS-M):下痢と便秘を交互に繰り返します。数日ごとに症状が目まぐるしく変わるのが特徴です。
- 分類不能型:上記のどれにもはっきり当てはまらないタイプです。ガス症状が強い場合は「ガス型」と呼ばれることもあります。
5. 過敏性腸症候群の診断・検査
IBSは、他の大腸の病気(器質的疾患)がないことをしっかり除外したうえで診断されます。主に以下のような状態が慢性的に続く場合に疑われます。
- 腹痛が繰り返し起こる
- 排便で症状が軽くなる
- 排便回数が変化する
- 便の形状が変化する
隠れた重い病気がないか確認する各種検査
重い病気が隠れていないか確認するため、必要に応じて血液検査、尿検査、便潜血検査、腹部CT検査、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)などを行います。特に血便、発熱、体重減少がある場合は、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)との鑑別が重要です。
6. 過敏性腸症候群の治療法
生活習慣の改善
- 十分な睡眠をとる
- 規則正しい生活を心がける
- 適度な運動を取り入れる
食事療法
刺激の強い食品を控えます。控えめにするものは、アルコール、香辛料、脂っこい食事、カフェイン、炭酸飲料などです。症状によっては発酵性の短鎖炭水化物を控える「低FODMAP(フォドマップ)食」が有効な場合もあります。
薬物療法
症状のタイプに応じて、次のようなお薬を組み合わせて使用します。
- 整腸剤(プロバイオティクス)
- 下痢止め、便秘薬(高分子重合体など)
- 消化管運動調整薬、抗コリン薬
- 抗不安薬・抗うつ薬(必要時)
心理療法
ストレスの影響が非常に強い場合には、ストレスマネジメント、リラクゼーション療法、認知行動療法などを併用することがあります。
まとめ|つらい症状はひとりで抱え込まずにご相談を
過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスや自律神経の乱れによって腸の機能が過敏になる病気です。命に関わる病気ではありませんが、生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。症状が続く場合は、自己判断せず消化器内科へご相談ください。
7. よくあるご質問(Q&A)
Q1. 過敏性腸症候群は何科を受診すればいいですか?
A. お腹の症状が中心となるため、消化器内科を受診するのが基本です。腹痛や便通異常の背景に大腸がんなどの病気が隠れていないかを確認したうえで、IBSの診断・治療を行います。
Q2. ストレスがなくなれば治りますか?
A. ストレスはIBSの大きな要因のひとつですが、それだけが原因ではありません。ストレスマネジメントに加えて、食事・生活習慣の見直しや薬物療法を組み合わせることで、症状のコントロールを目指します。
Q3. 食事で避けたほうがよいものはありますか?
A. アルコール、香辛料、脂っこい食事、カフェイン、炭酸飲料などは症状を悪化させやすいとされています。人によっては、発酵性の糖質を控える低FODMAP食が有効な場合もあります。
Q4. 市販の整腸剤で改善しますか?
A. 軽い症状であれば市販の整腸剤で楽になることもありますが、症状が長く続く、あるいは血便や体重減少を伴う場合は、他の病気が隠れている可能性もあるため、医療機関での検査をおすすめします。
Q5. 大腸がんとの違いはどう見分けるのですか?
A. 症状だけで見分けることは難しいため、血液検査や便潜血検査、大腸内視鏡検査などで大腸がんや炎症性腸疾患がないかを確認したうえで、過敏性腸症候群と診断されます。
Q6. 完治しますか?一生付き合う病気ですか?
A. 症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多い病気ですが、生活習慣の改善や治療によって、症状が気にならない程度まで落ち着くケースも多くあります。
Q7. 子どもでも過敏性腸症候群になりますか?
A. 過敏性腸症候群は子どもや若い世代にもみられる病気です。学校や家庭でのストレスが影響することもあるため、お子さまの腹痛や便通異常が続く場合も、医療機関へのご相談をおすすめします。
Q8. 下痢型と便秘型で治療法は違いますか?
A. タイプによって使用する薬は異なります。下痢型には下痢を抑える薬、便秘型には便秘薬や消化管運動調整薬など、症状のタイプに合わせた治療を行います。
■ 参考文献・外部リンク(学会・公的機関)
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